立った、歩いた

まさや

2025年04月04日 06:18

立った、歩いた——自分の足で、自分の力で

九ヶ月と三日。体育の日に、加奈子は自分の意志で、自分の足で立ち上がりました。

お昼過ぎ、おもちゃで遊んでいた加奈子が、突然すっくと立ち上がりました。両手におもちゃを持ったまま、尻餅をついてしまいましたが、また立ち上がり、また尻餅。父も母も祖母も大喜びでした。もちろん本人も、みんなの喜ぶ声に気をよくして、繰り返し繰り返し立ち上がりながら、にこにこ笑っていました。

そしてその翌々日、十月十二日。ついに歩き始めたのです。感動の瞬間でした。




その日から歩き始めた足は、やがて幼稚園へ、小学校へと進み、運動会では選手になり、中学校では陸上部員として活躍します。日本舞踊では、優雅に裾引きを着て踊るようになるのです。

幼い頃は、毎日夕方にお風呂に入りながら、こう言い合ったものでした。

「がんばりやの足さんね」
「うん、がんばりやさん。ごくろうさん」

一日の疲れを、足と一緒に労(ねぎら)い合っていたのです。

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